とんかつを揚げていて、最も緊張するお客様。もちろん全てのお客様に緊張感を持って、とんかつを一枚一枚揚げています。
でも、私も人間なので、お客様によって過度に緊張してしまうことがあります。常連のお客様、業界の諸先輩、同業の皆さま、じっと動画を撮られるお客様、美人のお客様などなど、つい意識してしまう瞬間があります。
でも最も緊張するお相手とは?
それは、生産者の皆さまです。生産者の皆さまに召し上がっていただく瞬間が、最も緊張、失敗できないプレッシャーを強く感じます。
精魂こめて育てた豚のポテンシャルをしっかり生かしているか? ご納得いただけるとんかつに仕上がっているか? 一口目を口にされる瞬間に、緊張はピークを迎えます。
「うん、美味しい」とおっしゃっていただいたり、笑みを浮かべる様子などを拝見して初めて、ほっとできるのです。
ここ数ヶ月でも多くの生産者の皆さまにお越しいただきました。「どろぶた」を育てる平林さん。「サドルバック」を手がける福留さんも鹿児島からお越しいただきました。「安曇野げんき豚」の川上社長。毎日極上のパン粉を届けてくださる中林さん。つい先日は、与那国島からお塩をつくられている杉本さんにもお越しいただきました。「天城黒豚」や「伊豆の太湖豚」を手がける金子さんに至っては、毎月のように品質チェックにご来店いただいております。
我々の本当の喜びとは?
我々は、多くの生産者が育てた豚を紹介しております。
最初は「いろいろな銘柄豚を食べ比べいただけたら楽しいだろうな」というような考えでした。「あれも食べたい、これも食べたい」といった「積極的に迷えるメニュー」、「銘柄豚のラインナップ」を提供できたらと考えていたのです。
しかし、それはある一面しか捉えていないことにやがて気がつきました。生産者の元を訪ね、お話を聞くようになり、まったく違う側面が見えてきたのです。
「銘柄豚」という豚肉、あるいはそのとんかつは、「結果」でしかないことに気づきました。実は「その先の生産者の皆さまの想い」や、「豚の育ってきた背景、ストーリー」にこそ、本当の銘柄の価値があることがわかりました。そして、それをお店にお越しいただくお客様に共有できたら、それこそが我々の喜びになるということに気づいたのです。
もちろん、これは豚肉ばかりではありません。お塩然り、お米然り、お漬物も同様です。
とんかつを介して、生産者の皆さまに想いを馳せていただけるような「美味しさの先を想像できるととんかつ」を提供できるよう、これからも取り組んでいきたいと考えております。
まもなく「開店一周年」
もうすぐ開店から一年を迎えます。「自分たちのつくるとんかつが美味しいから、是非食べてみてください!」というような想いはほとんどありません。「この豚さん、おいしいですよね!? 実はですね、・・・」
そんな風にそれぞれの銘柄のストーリーを今後も紹介していけたら、これに勝る喜びはありません。