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    とんかつ道コラム

    思わず誰かに話したくなるような
    とんかつへの愛に溢れる情報を発信していきます。

    ふくしまLDマンガリッツァ

    LDとは、ランドレースとデュロック。この母豚にマンガリッツァを掛け合わせた「LDマンガリッツァ」は、非常に珍しい配合の品種です。濃厚な赤身、柔らかな食感、そしてとろけるような脂身。その肉質は、最後に掛け合わせる「マンガリッツァ種」に由来するところが大きく、この品種はハンガリーの国宝にも指定されています。その血脈を受け継ぐ生産者は、日本でも五指にも満たないほど貴重な存在です。

    伊藤徳芳さんは、創業70年を迎える「本宮ポーク」の三代目。福島県のほぼ中央、安達太良山の麓にある農場は、澄んだ空気と豊かな水に恵まれた土地です。ご家族で養豚を営み、長年にわたり「LDB」という三元豚を中心に生産を続けてこられました。

    近年の養豚業界では、生まれてから出荷までおよそ120日-150日という、効率重視の生産が主流となっています。肥育日数が短ければコストを抑えられ、価格競争力も高まるためです。そんな中で本宮ポークは、「効率よりもおいしい豚を」という信念を貫いてきました。最後に黒豚(B)を掛け合わせるLDBは、出荷まで200日以上を要します。効率性は決して高くありませんが、その肉質の高さは多くのお客様を魅了してきました。

    しかし、コロナ禍の中で徳芳さんが農場を継いだ頃、養豚業界の競争はさらに厳しさを増していました。「このままでは生き残れない。もっと差別化しなければ。」
    そう考えた徳芳さんは、「おいしい豚づくり」をもう一歩進化させようと決意します。
    そして心の中に浮かんだのは──「マンガリッツァに掛けてみるしかない」という想いでした。

    遡ること数年前、お隣の宮城県・しまざき農場がハンガリーからマンガリッツァを導入していました。本宮ポークの先代は、島崎社長と親しく、その際「よかったらうちのマンガリッツァを使ってみないか」と声をかけられていたそうです。しかし、極めて生産性の低い品種であるため、なかなか踏み切れずにいました。

    やがて徳芳さんは腹をくくり、島崎社長にお願いして、本宮ポークの基盤となるLD母豚にマンガリッツァを掛け合わせました。生育はLDBよりも遅く、なかなか大きくなりません。200日を過ぎても出荷できるサイズには届かず、「失敗したらどうするんだ」という声も多かったそうです。それでも徳芳さんは言いました。「失敗したら、自分たちで食べればいいじゃないか。」

    肥育日数は240日を超え、ようやく出荷できる大きさに育った豚を試食した瞬間、その甘さに思わず目を見張ったといいます。「これなら、きっといける!」

    その後も地元東北のおいしいお米を飼料に加えるなど、改良を重ねました。まずは福島県内から販売を開始し、少しずつ、しかし確実にお客様の評価を得ていきます。そしてついに、東京への出荷も始まりました。

    2025年の夏。jp(tonkatsu .jp)の上野シェフが、地元福島の友人から「安達太良においしい豚がある。ぜひとんかつで試してみては」と紹介を受けました。すぐに取り寄せ、味わいに惚れ込み、すぐさま農場を訪ねました。


    その際、徳芳さんは第一声でこうおっしゃいました。
    「tonkatsu.jpで提供される銘柄になることを目標に、頑張ってきたんです!」


    お母様も笑いながら、「あんた、それずっと言ってたよね」と。

    そんな言葉をいただけることは、私たちにとって本当に光栄でした。LDマンガリッツァの持つ可能性を、全て引き出さねばという思いで身が引き締まりました。

    本宮ポークでは、伊藤さん、お母様、スタッフの皆さんの笑顔が絶えません。その笑顔はきっと豚たちにも伝わっているのでしょう。豚たちは本当に元気で、その命をいただく私たちまで元気にしてくれます。

    人と豚が結んでくれたご縁から生まれた「ふくしまLDマンガリッツァ」。

    どうぞその味わいを、じっくりとお楽しみください。

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